
ハーバード大学大学院が多様性オフィスのブランドを変更、大学はDEIメッセージを消去
ここ数週間、ハーバード大学の複数の大学院において、多様性(Diversity)、公平性(Equity)、インクルージョン(Inclusion)、いわゆる「DEI」関連のオフィスが相次いで閉鎖され、あるいは名称変更が行われている。こうした変化は、同大学におけるDEI施策の見直し、あるいは再編の兆候として注目されている。
7月1日、ハーバード神学大学院はそれまでの多様性オフィスを「Office of Community and Belonging(コミュニティと帰属のオフィス)」に改称したと発表。続いて7月5日には、ハーバード公衆衛生大学院も同様に、DEI関連部門の名称を「Office for Community and Belonging」に変更したことを明らかにした。これにより、いずれの大学院においても「多様性」や「インクルージョン」といった文言は公式名称から姿を消すこととなった。
この動きは他学部にも波及している。ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)では、これまでマイノリティ、女性、LGBTQ+の学生を対象に支援施策を紹介していた公式ウェブサイトの記述が削除された。また、かつて「Diversity & Inclusion(多様性と包摂)」を肩書きに含んでいたスタッフが、現在では「Community & Culture(コミュニティと文化)」に従事していることが確認されている。
ボストン公共ラジオGBHの報道によれば、ハーバード教育大学院では先週、最高多様性責任者(Chief Diversity Officer)であったジャロッド・チン氏を解雇し、同大学院のDEIオフィスも閉鎖されたという。なお、チン氏のプロフィールや同オフィスのウェブページは記事執筆時点でオンライン上に残っていたが、本人および大学の広報担当者はコメント要請に応じていない。
ハーバード大学の中央広報も、今回の組織改編に関するコメントを控えている。一方で、今回の変更に伴う大規模な人員整理などは確認されておらず、一部では代替となる支援プログラムの実施も示唆されている。ただし、それらの具体的な内容については明らかにされておらず、学生や教職員に対する説明も限定的である。
今回の動きは、同大学が4月下旬に中央レベルでのDEIB(Diversity, Equity, Inclusion, Belonging)事務局を廃止・再構成したことを起点としている。7月初旬には、芸術科学部が多様性オフィスを閉鎖し、「学術文化とコミュニティのためのオフィス」への改組を発表した。同日には、ハーバード・カレッジに設置されていたマイノリティ、LGBTQ、女性学生向けの各種支援センターのウェブサイトが静かに削除されるなど、目に見える形でのDEI表現の削除が進行している。
さらに、ハーバード大学医学部も2024年夏の初めにDEI関連部門の再編を行い、組織名も変更している。一方で、ケネディスクール、ロースクール、デザインスクールなど一部の大学院では、現時点で明確な変更の発表は行われていない。
今回の一連の措置は、全米の高等教育機関で議論が進むDEIの位置づけと、その将来像をめぐる転換点のひとつとして受け止められている。ハーバード大学という象徴的存在の動向は、今後の大学政策全体に波紋を広げる可能性がある。(出典:Harvard University, The Harvard Crimson)