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トヨタ、「レクサス再定義」と「センチュリー独立化」に挑む

高級車市場で問われる“日本流ラグジュアリー”の構築力

トヨタ自動車が、グローバルブランドの再構築に本格的に動き始めた。旗艦ブランド「レクサス」は開発の自由度を高め、6輪構造の電気ミニバンという前例のない試みで先進性を前面に打ち出す。一方、伝統の高級車「センチュリー」は独立ブランドとして再出発し、「超高級車」市場への挑戦を宣言した。
2つの高級ブランドがそれぞれの進化を遂げる背景には、トヨタのブランドポートフォリオ戦略の再設計がある。

レクサス、30年目の“脱セダン宣言”

1989年のデビュー以来、レクサスは「静粛性」「信頼性」「品質感」というトヨタ的価値観を磨き上げてきた。その頂点に立つ「LS」は、ブランド誕生の象徴的モデルでもある。そのLSがいま、ミニバンとして生まれ変わろうとしている。
ジャパンモビリティショー2025で公開される「LSコンセプト」は、6輪構造を採用したEVミニバン。運転手付きの「ショーファーカー」用途を想定し、従来のセダン型とは一線を画す。燃料タンクを廃したEV構造により、後席を中心とした空間を最大化。2列目・3列目の間隔をゆったりと取り、乗降性と居住性を両立させた。
さらに、ハンドルやペダルを持たない一人乗り自動運転モビリティ「LSマイクロコンセプト」も併せて展示される。移動の概念そのものを再定義する取り組みだ。

トヨタにとってこの試みは、単なる新モデルではない。高級セダンの象徴だったLSをミニバンに置き換えることは、ブランドの重心を「運転の愉しみ」から「空間と体験の価値」へと移すことを意味している。欧州勢がクラフトマンシップと走行性能で競う中、レクサスは“日本的おもてなしの移動空間”という独自の領域を開拓しようとしている。

センチュリー、超高級ブランドとして独立へ

一方、トヨタの最上位に位置してきた「センチュリー」は、新たに独立ブランドとして船出する。
従来、センチュリーはレクサスの上位に位置づけられながらも、あくまでトヨタブランド内の特別モデルという位置だった。今回の独立化により、トヨタのブランド構成は「トヨタ」「レクサス」「センチュリー」など5つに整理され、それぞれが担う価格帯と世界観が明確化される。

センチュリーの現行モデルは、セダンとSUVの2種。価格はそれぞれ約2000万〜2700万円で、英国ロールス・ロイスのEVクーペ「スペクター」(約4800万円)と比べれば、まだ「超高級車」市場には距離がある。
だが、トヨタ経営陣は「ウルトラ・エクスクルーシブ(超高級)の世界に挑戦する」と明言。富裕層市場の本格的攻略に向けて、センチュリーを“日本のプライド”として世界に発信する構えだ。

レクサスとセンチュリーの“棲み分け問題”

レクサスが直面してきた課題は、トヨタとのブランド重複だった。クラウン、アルファード、ランドクルーザーといった上位トヨタ車の高級化が進み、「レクサスは何のためのブランドか」という問いが再び浮上していた。
そこでトヨタは、センチュリーをさらに上位に据えることで、ブランド階層を整理しようとしている。
センチュリーが「王の車」として象徴的な存在感を放つことで、レクサスはより自由に未来的なデザインと体験価値を追求できる。チーフ・ブランディング・オフィサーは「センチュリーが最高峰に立つことで、レクサスはラグジュアリーの中心で進化できる」と語る。

この構図は、トヨタが欧州高級車勢に対抗するための「日本型ブランド建築」とも言える。ロールス・ロイスやベントレーが“伝統と威厳”を体現する一方、レクサスは“未来と体験”を象徴する。その中間にクラウンやアルファードがあることで、トヨタ全体としてのピラミッド構造が形成されつつある。

日本発ラグジュアリーの再定義へ

ただし、ブランドの定着には時間がかかる。レクサスが世界販売50万台を超えるまでに約20年を要したように、センチュリーの国際的ブランド化も長期戦となるだろう。しかし、EV化と自動運転が進むなかで、ラグジュアリーの意味が「性能」から「体験価値」に変わる今こそ、日本的な細やかさと哲学を武器にできるタイミングでもある。

トヨタは今、技術の競争を超えて「ブランド文化の創造」という新しい領域に踏み出した。レクサスが未来のラグジュアリーを描き、センチュリーが日本の矜持を体現する。その2つが並び立つとき、トヨタは初めて欧州勢と肩を並べる「ブランド国家の代表」として世界に姿を示すことになるだろう。(出典:トヨタ自動車、日本経済新聞他)

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