
Advertising Week 2025:Z世代マーケティングにおける誤解と真実
ニューヨークで開催されたAdvertising Week 2025のセッションにおいて、複数のCMO(最高マーケティング責任者)が、Z世代に関する従来の定説を再考すべきだと主張した。
「Z世代は広告を嫌い、ブランドへの忠誠心がない」という一般的な認識は、現実を単純化しすぎているという。
「Z世代は忠誠心がない」は誤解
ヒルトンのCMO兼ラグジュアリーブランド統括責任者であるマーク・ワインスタイン氏は、「Z世代はより部族的で細分化された環境で育っており、マスメディアはもはや存在しない」と指摘。
Z世代は単に「広告を嫌う世代」ではなく、自らの価値観や興味に基づいた小さなコミュニティで情報を共有し、共鳴するブランドに強く惹かれていると説明した。
EOS Products社長のカン・ソヨン氏も、Z世代が「ブランドに無関心」という見方を否定する。同社の社内調査では、Z世代は上の世代より約30%高いブランド忠誠度を示しており、むしろ研究熱心で選択に慎重な層であるという。
「Z世代はあらゆる情報にアクセスでき、それを見極める能力を備えている。単なる“浮気性”ではなく、選択眼が鋭い世代なのです」とカン氏は述べた。
広告嫌いではなく“つまらない広告嫌い”
BoseのCMO ジム・モリカ氏は、Z世代が「広告を嫌う」のではなく、「退屈な広告を嫌う」のだと指摘。
「彼らはエンターテインメント性や共感を感じるコンテンツには積極的に反応する。広告はもはや主役ではなく、ストーリーの一部であるべきだ」と語った。
Boseは最近、人気ストリーマーKai Cenatとの1カ月にわたるコラボ配信を実施。従来型の広告ではなく、カルチャーや会話に自然に溶け込む形でブランドを発信している。このような「文化に根差したアプローチ」が、Z世代とのエンゲージメントを高める鍵になっている。
「関係性の構築」が最優先の戦略
Z世代との信頼関係を築くには、“ブランドが主役であろうとしないこと”が重要だとパネリストたちは一致して指摘した。企業は一方的な発信ではなく、TikTokやInstagramなど、彼らが集まるオンライン空間での「対話」に参加する姿勢が求められる。
ヒルトンのワインスタイン氏は、「ブランドの役割は、すでに存在する情熱的なコミュニティに入り込み、その文化を尊重することだ」と強調。同社は、インフルエンサーやマイクロクリエイターとのコラボを通じて、Z世代が自分たちの物語を語れる場をつくる取り組みを進めている。
ケーススタディ:H&Rブロックの成功例
税務サービス企業のH&R Blockは、Z世代向けに制作したリアリティ番組風キャンペーン「Responsibility Island」で大きな成功を収めた。このシリーズは「納税」をテーマにしながらも、エンタメ性を重視した構成でZ世代の視聴者を獲得し、のちに“同窓会企画”まで行われたほどの人気を博した。
H&R BlockのCMXO(最高マーケティング・エクスペリエンス責任者)ジル・クレス氏は次のように語る。
「彼らは真面目な講義では動かない。楽しさと共感を通じて関係を築くことが、最も効果的なアプローチです。」
“クリエイター経済”の中で生まれる信頼
Z世代にとって、広告代理店よりも「クリエイター」が信頼できる存在であることが多い。この傾向を受け、ブランドはマスキャンペーンよりもクリエイターとの共同制作にシフトしている。
ヒルトンも、パリス・ヒルトンのような著名人だけでなく、フォロワー数が数千人規模のマイクロインフルエンサーと連携し、コミュニティベースのマーケティングを強化している。
一方、Z世代が重視するのは「本物の声」であり、過度に演出された広告は逆効果となる。ブランドは“共演者”として参加することを意識すべきだという。
Z世代マーケティングの本質は“参加型ストーリーテリング”
Z世代を獲得するための鍵は、広告を押しつけるのではなく、彼らと一緒に物語をつくることにある。
「広告が嫌われている」のではなく、「共感を生まないブランド」が見放されているのだ。
彼らは、ブランドの価値観・透明性・文化的関与を敏感に見抜く世代である。
だからこそ、Z世代へのアプローチには「売る」ではなく「関わる」という姿勢が求められている。
「Z世代は、最も批判的で、同時に最も情熱的な世代だ。
彼らの文化に敬意を払い、共に歩むことができるブランドこそが、次の10年を制するだろう」
(出典:Advertising Week 2025、Digital Marketing Dive)