
ディズニーが大人ファンを取り込みビジネスを拡大する手法
「大人ディズニーファン」文化の形成
多くのブランドが顧客ロイヤリティの低下に悩む中、ウォルト・ディズニー・カンパニーは、大人層で構成される熱心なファンを抱えるという強みを有している。新たに出版された書籍では、ディズニーブランドを愛する大人たちが、ウェディングから住宅購入まで幅広い分野で消費を行う様子が紹介され、この拡大する市場に応える同社の事業展開が描かれている。
ブルームバーグによれば、この「大人ディズニーファン」文化は、ノスタルジアやキッズトレンド、少子化、インターネット上で育まれたファンダムが原動力となって形成された。数値は限定的だが、書籍の著者は「子どもを伴わずにキャラクターグリーティングに並ぶ大人は約20%」と推定しており、元ディズニー幹部は「オーランドのパーク来訪者の半数は大人」と見積もっている。
同社はこうした需要に応え、結婚式(年間4,000組がディズニーワールドで挙式)、企業イベント、クルーズ船の大人専用ラウンジ、パーク内でのアルコール提供などを拡充。また、カリフォルニアの砂漠地帯では、ディズニーランド型のコミュニティに暮らせる住宅を100万~200万ドルで販売している。
サブカルチャー形成の背景とマーケティング活用
ディズニーは世界的な知名度と文化的影響力を持つが、他ブランドも同様にスーパーファンとのつながりづくりから学べる点は多い。現代社会では不安感が高まり、大人たちが安心できる空間を求める傾向が強い。インターネットはその不安を助長する場であると同時に、ニッチなファンダムの温床ともなり、心理的避難所として機能している。
こうした背景のもと、ソーシャルメディアを活用して忠実なフォロワーと感情的なつながりを築くことは、ノスタルジアマーケティングの有効な手段である。また、玩具分野でも「ブラインドボックス」のような購入欲を高める戦術が成果を上げている。
「キッズアルト」市場の拡大
大人向けディズニーファンダムの拡大は、成長を続ける「キッズアルト(kidults)」トレンドの一部でもある。WARCによると、米国の成人消費者の52%が過去1年で自分用に玩具やゲームを購入した。ガーディアン紙の調査では、英国、ドイツ、フランス、スペイン、イタリアにおいて、18歳以上の成人が玩具売上の18%(総額27億ドル)を占め、前年比で10%増加したという。
玩具業界アドバイザーのフレデリック・タット氏は「12歳以上の消費者の需要は前例のない成長を示し、従来の子ども向け市場を上回っている」と指摘している。一方で、関税が業界に与える影響については懸念が残る。(出典:WARC、画像:Getty)