世界アート市場は回復基調へーアート・バーゼル×UBSレポートが示す2025年の実像と課題

回復は進むが、ピークには届かず

アートフェア「アート・バーゼル」と金融機関「UBS」が発表した年次レポートによれば、2025年の世界アートおよびアンティーク市場は緩やかな回復局面に入った。総売上高は前年比4%増の約596億ドルとなり、過去2年間の縮小から持ち直しを見せた。
ただし、この回復は限定的であり、市場全体としては依然として2022年のピーク水準には達していない。コロナ禍からの反動的な回復は一巡しつつあるものの、成長は地域やセグメントごとにばらつきが見られる状況である。
市場構造に目を向けると、米国・英国・中国の3カ国で世界売上の76%を占める集中構造に大きな変化はない。米国は44%のシェアで首位を維持し、英国が18%で続く。中国は14%で3位を占めるが、売上は約85億ドルと前年比1%強の増加にとどまり、実質的には横ばいに近い。
中国国内ではオークション市場が回復した一方で、国際色の強い香港市場は縮小した。アジア全体でも動向は分かれ、日本は前年比1%減とやや減速したのに対し、韓国は6%の成長を記録している。

関税と地政学が市場を揺らす

2025年のアート市場において、最大の不確実性要因となったのが米国の政策動向である。とりわけ関税政策や政治的な不透明感が、国際取引に影響を及ぼした。
米国向けの美術品・アンティークの輸入額は前年比13%増の99億ドルと拡大したが、輸出は1%減少した。関税の影響は一部で緩和措置や駆け込み需要によって吸収されたものの、多くのディーラーやオークションハウスが事業への影響を指摘している。
加えて、国境を越えた取引の複雑化や物流コストの上昇は、業界全体にとって無視できない負担となっている。政治・経済の不安定さが需要そのものにも影響を及ぼすリスクが意識されており、市場の回復基調に影を落としている。

ジェンダーの進展と構造的課題、そして強まる楽観論

市場の構造面では、女性アーティストの存在感が引き続き高まっている。プライマリー市場のギャラリーでは男女比がほぼ均衡し、全体でも女性作家の割合は44%に達した。これは2018年の32%から大きく改善した水準である。
売上面でも女性アーティストの比率は2018年の28%から37%へと上昇しており、とりわけプライマリー市場では売上の44%を占めるまでになった。しかし、ディーラーの規模による格差は依然として残る。小規模ディーラーでは女性作家の比率が55%に達する一方、大規模ギャラリー(売上1000万ドル超)では35%にとどまり、売上ベースでは27%とさらに低下する。
こうした中、2025年のモダンアート分野で最高落札額を記録したのは、フリーダ・カーロの作品《El Sueño (La Cama)》(1940)であり、5470万ドルで落札され、女性アーティストとしてのオークション最高額を更新した。
市場心理に関しては、2026年に向けて楽観的な見方が広がっている。売上の増加を見込むディーラーは43%、横ばい予想が38%、減少見込みは19%にとどまった。前年に比べて景況感は明確に改善している。
しかしその一方で、運営負担はむしろ増大している。最大の課題として挙げられたのは政治・経済の不安定さであり、これに既存顧客との関係維持が続く。既存顧客は取引数の51%、売上額の62%を占めており、その重要性は依然として高い。
さらに、アートフェア参加に伴う渡航費や出展費の上昇、間接費や運営コストの増加も深刻化している。これらのコストは前年から最も大きく増加した項目であり、中堅オークションハウスにとっても同様に主要な懸念となっている。(出典・画像:The Art Basel and UBS Global Art Market Report 2026)

関連記事一覧