カンヌライオンズ2023の動向について速報レポートを。社会課題にチャレンジするクリエイティブは相変わらずだが、パーパス・バブルの中、賞狙いの短期的で効果性の怪しいキャンペーンも多く、インパクトや継続性など、評価もかなり厳しくなっているよう。単発の広告コミュニケーションでなく、組織の志をアクションとして実現し、目的(パーパス)とアイデア、そしてテクノロジー(クラフト)が相まった、継続的なインパクトのある取り組みが必須になってきている。いくつか注目の受賞作品をアップデートしておこう。
●ツバル「The First Digital Nation」https://www.tuvalu.tv/
温暖化で国土が水没の危機にさられされるツバルが、「土地のない国はどうなるのか?」に対する挑発的な答えとして、バーチャルな世界へ自らを複製する革新的な試みを実施。カンヌライオンズの最高賞・ダン・ヴィーデン・チタングランプリを受賞。
この仮想国家についてCOP27でスピーチを行ったツバルの法務・通信・外務大臣であるSimon Kofe氏(COP26でも半分海に沈んだお立ち台でスピーチしていた)は、「我々の希望は、物理的な領土と並んで存在するデジタル国家を持つことです。万一物理的な領土を失ったとしても、うまく機能しているデジタル国家があり、ツバルの代表として世界から認知されることです」と語る。ツバルの物理的景観がバーチャルツインで保存される他、文化遺産を保護するため、物語、伝統的な歌、歴史的な文書、記録された文化的な慣習をカタログ化し、デジタル化する予定。
●インテル「Certified Human」
Dentsu Creative等との取り組みだが、AI を使用してディープフェイクをリアルタイムで検出するという、この種の最初のテクノロジー開発。2026 年までに、コンテンツの 90% が合成になると言われる中、顔認識では判別不可能な、人間の目には見えない、心臓が血液を送り出すときの顔の静脈を見る手法で、時代環境に適合したアイデア自体に人間らしさを訴求している。
●ナイキ「Never Done Evolving」:https://www.youtube.com/watch?v=2ehJczf2FEk
ナイキの50周年記念キャンペーンとして、AIを活用して、1999 年の全米オープンでのウィリアムズの初グランドスラムと、2017 年の全豪オープンでの直近のグランドスラムの対戦を実現。セレナの進化を解読することで、彼女が年齢を重ねるにつれてより大胆になり、正確になり、少ないエネルギーを浪費しながら同様の結果を達成したことがわかる仕組み。偉大なアスリートのキャリアに敬意を表するプロジェクトは、ナイキのオーガニック YouTube 記録をすべて破ったそう。
●パートナーズ・ライフ「Raised the dead」
NZの生命保険会社パートナーズ・ライフのキャンペーンで今年のヘルス&ウェルネス・グランプリを受賞。 同国の人気テレビ犯罪ドラマ「ブロークンウッド ミステリーズ」に便乗して、毎週殺された登場人物を生き返らせるもの。タイアップ広告でエンドロールの直前に追加シーンを、殺害されたばかりの登場人物が遺体安置所の石板の上から目を開け、殺されたことへの驚きを表明し、自分の死について語り、生命保険の重要性を強調するアイデアはすごい説得力。ブラックすぎて日本の地上波では不可能ですが、Netflixならできそう。
●アンナハール新聞「Newspapers Inside The Newspaper」https://www.dandad.org/…/newspapers-inside-the-newspaper/
ニュース・出版部門を2年連続受賞。レバノンの新聞AnNaharは、抑圧的な国で報道の自由を擁護するため、強制的に閉鎖された他の新聞を復活させるベく自社紙面を利用。”新聞の中の新聞 “は、廃刊になった出版物の記者に再び執筆してもらい、1日だけニュースを掲載。迫害を恐れずに好きなことを書けるようにと復活したもの。かつて指揮を執っていた各紙のジャーナリストたちによって書かれており、2005年に48歳で殺害されたAnNahar編集長兼発行人のGebran Tueniの暗殺記念日に開始された。
●アップル「The Greatest」https://vimeo.com/776811579