
コカ・コーラがジェネレーティブAIの活用で学んだこと
Marketing Diveのインタビューで、コカ・コーラ社のジェネレーティブAI責任者であるプラティク・タカールが、同社がこの技術をどのように取り入れ、活用しているかを語った。
ジェネレーティブAIへの取り組みの始まり
生成AIの進化と、それが企業のマーケティング活動に与える影響は、2025年においても重要な課題となっている。特に、2022年末にOpenAIがChatGPTを発表して以来、この分野への注目と投資は急速に拡大した。
コカ・コーラは、この分野にいち早く取り組んできた企業の一つであり、その活動はChatGPTの登場以前から始まっていた。最初の試みとして、Stable Diffusionを開発したロンドンのStability AIと協力し、キャンペーン「Masterpiece」を展開した。この段階で、ジェネレーティブAIの可能性と実用性を理解し、特定のプロジェクトにおける活用のメリットを実感したという。
その後、OpenAIのGPTが登場し、大きな話題となった。コカ・コーラはコンサルティングパートナーであるベインと協力し、OpenAIとの提携を開始。2023年にはDALL-EとGPTを組み合わせた「Create Real Magic」プラットフォームを発表し、ジェネレーティブAIの活用をさらに加速させた。
AIチームの構成と社内での位置付け
コカ・コーラ社内には、AI専用の部署は存在しない。グローバル規模では、タカール氏とガバナンスを担当する同僚の2名が中心となっているが、実際には多くの社員がこの分野に関与している。各地域の異なる部門に所属する社員が、自発的にプロジェクトに参加し、時間の一部をジェネレーティブAIの研究と実装に充てている。
このアプローチにより、社内のAIリテラシーが高まり、各部門のニーズに応じた活用が可能になっている。最終的な目標は、AIがインターネットやモバイル技術と同様に、特別なスキルなしで誰もが活用できるものになることだという。
消費者向けと社内向けのAI活用のバランス
コカ・コーラでは、社内でAIを活用したい社員が簡単な申請を行い、ガイドラインに沿った適切なツールを提供する仕組みを導入している。これにより、同じようなアイデアの重複を防ぎ、より効率的な活用が可能となる。
また、タカール氏の役割の一つは、AI技術の最前線にいる企業と連携し、最新のアルファ版やベータ版の製品をいち早く試すことだ。これにより、新技術を活用したマーケティング施策を他社よりも先駆けて展開することができる。
ジェネレーティブAIを活用したキャンペーン事例
コカ・コーラのAI活用の代表例の一つが、クリスマスキャンペーンだ。この取り組みでは、1990年代の「Holidays Are Coming」CMをジェネレーティブAIで再現し、超リアルかつ幻想的なビジュアルを実現した。さらに、「Create Real Magic」プラットフォームを活用し、1931年のサンタクロースの3Dデジタルツインを作成。OpenAI、Microsoft Azure、Mimicと協力し、サンタと会話できるAIを開発した。このシステムでは26言語に対応し、リアルタイムでの会話が可能となった。
これらのプロジェクトは、AIならではの独自性を活かしながら、コカ・コーラのブランド価値を高める施策となった。
AI広告への反応と学び
クリスマスキャンペーンのテレビCMは、多くの注目を集めると同時に、ジェネレーティブAIの使用に関する議論も呼んだ。
一部の人々は、AIによる広告制作が簡単に行われていると誤解していたが、実際には、制作プロセスには人間のクリエイティブな判断が不可欠だった。CMの制作には、ロサンゼルス、サンフランシスコ、クアラルンプールの3つのスタジオが関与し、エンジニアやストーリーテラーが協力して開発を進めた。
また、AI活用においては、使用するツールの法的側面にも注意を払っている。コカ・コーラは、独自のガイドラインを設け、音楽制作などの分野でも人間のクリエイティブを重視している。
さらに、広告の受容性や理解度、エンターテインメント性について、北米、ヨーロッパ、ラテンアメリカの消費者を対象に調査を実施。競合他社のクリスマス広告と比較しても、高い評価を得る結果となった。
今後の展望
コカ・コーラは、プログラマティック・メディアを活用し、特定の地域向けにコンテンツをカスタマイズするハイパーパーソナライゼーションの手法を取り入れている。しかし、このアプローチには賛否があり、一部の消費者には好意的に受け入れられた一方で、異なる見方をする人もいた。ジェネレーティブAIの活用が進む中、同社は消費者の反応を尊重し、適切なバランスを見極めながら技術の活用を続けていく方針だ(出典;Marketing Dive)