
Accor、ウェルネス戦略の新たな進化を狙う
グローバルなホテルグループであるアコーは、ホスピタリティにおけるウェルネスの役割の変化を分析し、ゲスト体験の向上に向けた新たなアプローチを提案している。最新のホワイトペーパー『Making Waves: Rethinking Spa and Wellness Design for a Modern Era』 では、ラグジュアリーホテルにおけるウェルネスデザインの最適化と、それを活用した収益戦略を示している。
ウェルネスがホテル業界で重要視される背景
アコーの調査によれば、ゲストの79%が滞在時にウェルネスを重視している。また、Skiftの『2023 Luxury Traveler Survey』によると、旅行者の80%がウェルビーイングを旅行の決定要因としている。
このトレンドを受け、アコーはウェルネスデザインを再構築し、パーソナライゼーションやソーシャルなつながり、運営効率を重視する方針を打ち出した。同社のウェルビーイング・戦略・デザイン・開発担当グローバルSVPであるエムリン・ブラウン氏は、次のように述べている。
「私たちは、地元のジムと同等かそれ以上のクオリティを備えたクラブ、温浴施設、ウェルネスセンター、フィットネス施設を作り上げている。これらの施設は、地元の人々がフィットネスや社交、リラクゼーションのために訪れたくなる場所になっている」
ウェルネスデザインの新たな方向性
アコーは、従来のホテルスパやジムの枠を超え、五感を刺激する空間設計やバイオフィリック・デザイン(自然の要素を取り入れた設計)を活用し、ゲスト体験の向上を目指している。グローバル・チーフ・デザイン&テクニカル・サービス・オフィサーのアン・ベッカー・オリンス氏は、この変革について次のように説明している。
「スパデザインを、レストランデザインと同様に計画し、専門的なコンサルテーションを受け、ゲスト体験をトータルで考慮すれば、ホテルのウェルネス分野は劇的に変わる」
ウェルネスを通じた収益モデルの最適化
アコーは、ホテル業界におけるウェルネスの役割を「一時的な流行」ではなく、「持続可能な収益源」として位置づけている。同社のホワイトペーパーでは、会員制モデルの導入がブランドエンゲージメントを強化し、継続的な収益につながる可能性が高いと指摘している。
さらに、社交的な入浴文化(Social Bathing)や共同でのウェルネス体験が新たなトレンドとして注目されており、ゲストの嗜好の変化を捉えた戦略が求められている。
またアコーは、消費者の行動やフィットネスの嗜好、消費習慣を詳細に分析する「アバターアプローチ」を採用し、ホテルのウェルネス施設をより多様なゲスト層に適応させる戦略を進めている。このアプローチにより、スパやフィットネスセンターを単なる付帯施設ではなく、長期的に利用価値の高い空間へと進化させることが可能 となる。
運営効率とウェルネスのバランス
ウェルネスの魅力を最大化する一方で、アコーは運営効率の向上にも重点を置いている。ホワイトペーパーでは、以下のような指針が示されている。
- 利用率の低い設備(特大のトリートメントルームやヨガスタジオなど)を削減し、より収益性の高いサービスを優先する。
- ホテル宿泊客だけでなく、地元の会員も利用できる多目的スペースを設計し、収益基盤を強化する。
実際、ブティックアドバイザリー会社RLAの『ウェルネス不動産レポート2024』によれば、ウェルネス関連の収益が年間100万ドル未満、もしくはTRevPAR(1室あたりの平均総売上高)が10%未満のホテルは、収益が26%増加している。
ウェルネスとテクノロジーの融合
アコーは、デジタル技術を活用したウェルネス体験の向上にも注力している。
- セルフガイド型フィットネス体験の導入
- AIを活用した回復プログラムの開発
これにより、ゲストの利便性を高めると同時に、ブランドロイヤルティを強化することが可能となる。アコーのホワイトペーパー『Making Waves』は、ホスピタリティ業界におけるウェルネスの未来像を提示している。
- 単なるアメニティではなく、持続可能な収益源としてウェルネスを位置づける
- デザイン、サービス、テクノロジーを組み合わせ、ゲスト体験を総合的に向上させる
- 会員制モデルや地域コミュニティとの連携により、収益の安定化を図る
今後、ウェルネスはホテル経営の中核戦略としてますます重要性を増すことが予想される。(出典:Accor, Luxuly Daily他)