
電通グループ、CARTA HOLDINGSをNTTドコモとの合弁会社化へ─通信×広告×データの三位一体モデルへ
2025年6月、株式会社電通グループは、傘下のデジタル広告企業CARTA HOLDINGSをNTTドコモとの合弁会社とする業務資本提携契約を締結した。これにより、CARTAは上場を廃止し、NTTドコモの子会社化が予定されている。電通グループは今後、CARTAを持分法適用関連会社として位置づける。
本提携の目的は、電通の国内事業ブランド「dentsu Japan」におけるデジタルマーケティング機能の強化にある。CARTAの広告運用・プロダクト開発能力と、ドコモが保有するオンライン・オフライン横断の行動・購買データ(IDベース)を掛け合わせることで、新たなマーケティングソリューションの開発・提供体制を構築する方針だ。
また、ドコモの全国に広がる拠点ネットワークを活用することで、地域に根ざしたマーケティング支援も視野に入れる。さらに現在、電通とドコモが共同出資する株式会社D2CもCARTAの子会社となる見通しで、データ・広告配信の垂直統合が進む形となる。
電通グループは本件による連結業績への影響を「軽微」としているが、中長期的な事業構造に与えるインパクトは大きいと考えられる。
本提携の戦略的意図は?
この提携は、形式上は電通がCARTAへの支配権を手放す構図にも見えるが、実態としては「競争優位性の再構築」に向けた戦略的再編であると読み解ける。
第一に、広告市場における「データの量と質」の支配権を巡る競争が激化する中、ドコモの7,000万を超える契約者ベースのデータ基盤を活用できることは、電通にとって極めて大きな意味を持つ。特に、GoogleやMetaといった海外勢がIDベースの広告配信を武器に市場を席巻する中、国内発の大規模データ連携基盤を構築することは、生存戦略といえる。
第二に、上場廃止によってCARTAは四半期業績の評価圧から解放され、長期的視野でのプロダクト開発や基盤投資が可能となる。これは、R&Dとオペレーションの両輪が必要な広告テクノロジー分野において重要な条件である。
第三に、全国に拠点を持つドコモのインフラとCARTAのデジタルマーケ力を融合させることで、これまで都市部中心だったデジタル広告の裾野が地域へと広がる可能性がある。電通にとっても、地域創生型プロジェクトや地方自治体向けのデジタル支援といった新たな収益源が見えてくる。
一方で、提携により電通がCARTAの意思決定から一定の距離を置くことになるのは事実であり、「指揮」から「協業」へのシフトは避けられない。この変化をどう生かすかが、電通の国内戦略にとって今後の分水嶺となるだろう。
CARTA HOLDINGSを軸とした電通とドコモの新体制は、日本発の「通信×広告×データ」連携モデルとして、大きな注目を集めている。広告という枠を超え、地域や社会への価値提供まで視野に入れたこの提携が、国内マーケティング産業の構造転換の契機となるか。今後の展開が注目される。(出典:電通、CARTA Holdings、NTTドコモプレスリリース)