
US:米国の上位10%の富裕層が消費の50%を牽引
最新の経済データによると、アメリカの上位10%の富裕層が、国内の消費支出の50%を占める状況となっている。この事実はマーケティング戦略にも大きな影響を与えており、高級市場に重点を置く必要性が高まる一方で、特定の層への依存がもたらすリスクも無視できない。
富裕層への依存がもたらす影響
消費者向け企業が利益を拡大し、成長を達成するための一つの手法として、高級路線への転換が挙げられる。特に、部品や労働力のコストが上昇する中、自由に消費できる層にターゲットを絞ることで、収益の確保を図る傾向が強まっている。
しかし、富の集中が進みすぎることは、経済全体に大きなリスクをもたらす。仮に関税の影響で株式市場が大きな打撃を受け、信用不安が生じた場合、上位10%の消費行動が急激に鈍化する可能性がある。その結果、米国経済全体に深刻な影響を及ぼすことが懸念される。ラグジュアリーブランドにとっては、富裕層へのアプローチと市場の変動への対応を慎重にバランスさせることが求められる。
富裕層と中低所得層の格差の拡大
ムーディーズ・アナリティクスのデータによると、米国内で世帯年収25万ドル以上の富裕層と、それ以外の所得層との消費格差は拡大し続けている。現在、上位10%の富裕層が個人消費の50%、GDPの3分の1を占める状況となっている。
- 下位80%の所得者の支出は4年前と比較して25%増加しているが、これは同期間の物価上昇率21%をわずかに上回る程度にすぎない。
- これに対し、上位10%の富裕層は58%多く消費しており、ウォール・ストリート・ジャーナルは「彼らの財政状況はかつてないほど良好で、消費行動もかつてないほど活発になっている」と報じている。
- こうした動向を背景に、商品やサービスの価格は上昇しており、米国内の新車の平均価格は5万ドルに迫る勢いとなっている。
高級品市場の動向
中国の景気減速がグッチやLVMHのようなラグジュアリーブランドの業績に影響を与えているが、依然として世界には景気に左右されにくい裕福な消費者層が存在する。
例えば、エルメスはすべての地域で2桁成長を記録し、企業の評価額は3000億ユーロに達した。この業績はアナリストの予想を大きく上回るもので、競合ブランドを凌駕する結果となった。フィナンシャル・タイムズは「エルメスは富裕層を顧客基盤とし、レザーグッズの長い待ち行列を生む“抑制された生産モデル”を採用することで、不況の影響を受けにくい」と分析している。
このように、高級ブランドは伝統と排他性を維持しながら市場での影響力を拡大している。一方で、ラグジュアリー航空会社もプレミアム市場を重視する動きを見せている。
エールフランスKLMは、アメリカ市場をターゲットにビジネスモデルを高級志向に転換している。エールフランス航空は、ニューヨーク―パリ間のファーストクラス往復航空券を約24,000ドルで販売し、さらなる高級路線の強化を図っている。同社のCEOであるベン・スミスは、フィナンシャル・タイムズに対し、「プレミアム市場へのシフトは戦略的な選択であり、アメリカの富裕層が主要ターゲットとなる」と述べた。
また、調査によると、富裕層の72%が旅行時に高級品を購入することを重要視しており、パリはその代表的な目的地の一つとなっている。
今後の展望
富裕層の消費が経済を支えている現状を踏まえ、企業はこの市場にどうアプローチするかを慎重に検討する必要がある。一方で、特定の層への依存度が高まることはリスクにもつながるため、経済全体のバランスを見極めながら、マーケティング戦略を構築することが求められる。(出典:ウォール・ストリート・ジャーナル、ブルームバーグ、フィナンシャル・タイムズ、WARC)