アディダスかナイキか?不確実性に揺れるワールドカップ

拡大開催となる北米FIFAワールドカップは、商業的には大成功を収める可能性を秘めている。一方で、開催国アメリカをめぐる政治的緊張やFIFAの運営姿勢は、スポンサーにとって無視できないリスク要因となっている。こうした環境下で、アディダスとナイキという二大スポーツブランドは、対照的なアプローチを取っている。

公式スポンサーとして賭けるアディダス、距離を取るナイキ

アディダスはFIFAワールドカップのティア1スポンサー(公式パートナー)として、大会そのものに深くコミットしている。これは、ワールドカップという世界最大級のスポーツイベントの象徴性とグローバルリーチを最大限活用する、王道とも言える戦略だ。

しかしこの立場は、同時にコントロール不能なリスクを引き受けることも意味する。大会運営、開催国の政治判断、FIFAの意思決定など、ブランドが直接関与できない要素が評価に直結するからだ。最悪の場合、数億ドル規模の投資が、外部要因によって毀損される可能性もある。

一方のナイキは、FIFAとの公式パートナーシップには距離を置き、特定の代表チームやスター選手との個別契約を重視する戦略を取ってきた。今年の大会においても、その基本姿勢は変わっていない。大会全体ではなく、「ピッチ上の物語」に焦点を当てることで、組織的な混乱や政治的批判から一定の距離を保つことができる。

政治と運営がもたらす、スポンサーにとっての不確実性

今大会をめぐる最大の懸念は、スポーツの外側にある。アメリカのトランプ大統領は、共催国であるメキシコやカナダに対する強硬な発言を繰り返し、さらにはデンマーク自治領グリーンランドにまで言及してきた。また、試合を「安全でない」と判断した都市から移転させる可能性にも触れている。

加えて、アメリカが30カ国以上に課している渡航制限は、ハイチ、イラン、コートジボワール、セネガルなどからのファンの来場を妨げる恐れがある。入国条件として、過去5年間のソーシャルメディア履歴提出を求める提案もなされており、ファン体験への影響は小さくない。

運営面では、FIFAのチケット価格政策も批判を浴びている。グループステージの価格は2022年大会の約3倍、決勝戦の最安チケットは当初、約7倍に設定された。また、2026年大会では各ハーフ中に強制的な給水休憩が導入される予定で、選手の健康管理という建前の一方で、新たな広告枠創出という商業的意図も透けて見える。

リスクと距離感が分ける、ブランド価値の帰結

これらの政治的緊張、移動制限、価格高騰、試合の流れを分断する演出は、いずれも大会への信頼感を高めるものとは言い難い。さらに、悲観的な見方では、主催者やスポンサーを狙ったサイバー攻撃の可能性も指摘されている。ロシア発の攻撃を含め、地政学的リスクも完全には排除できない。

万一、大会運営が混乱した場合、FIFA会長ジャンニ・インファンティーノやトランプ大統領は歴史的解釈を書き換えるかもしれない。しかしスポンサーにとっては、不満を抱えたファンがリアルタイムで批判を拡散する評判リスクに直面することになる。その修復は容易ではなく、事前の危機対応計画が不可欠となる。

その点で、FIFAと直接結びつかないブランドは、混乱から距離を取りながら、純粋に競技や選手の物語に集中できる。実際、2024年のオリンピックでは、公式パートナーではなかったナイキが、チームや選手との提携と大会期間中の積極的な投資により、多くの公式スポンサーを上回る自発的認知と支持を獲得した。

ワールドカップという巨大舞台に「賭ける」アディダスと、そこから一歩引いた場所で価値を最大化しようとするナイキ。今年の大会は、スポンサーシップの量よりも、距離感と柔軟性がブランド価値を左右することを、改めて示す試金石となりそうだ。(出典:Axios、BBC、ロイター、City AM、Fox Sports、WARC、画像:Gett )

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