ナイキ失速、スターバックス撤退…中国市場で米国ブランドが直面する構造変化

かつて中国の若者にとって、米国ブランドは豊かさや先進性の象徴だった。ナイキ、スターバックス、ゲスといった企業は、中国の14億人市場を最大の成長機会と捉え、大規模な投資を続けてきた。
しかし現在、その前提は大きく揺らいでいる。中国市場では国産ブランドの競争力が急速に高まり、消費者の価値観も変化したことで、米国企業の存在感が低下している。

ナイキは中国売上が大幅減少、ゲスは中国撤退へ

米スポーツ用品大手ナイキは、2025年12月〜2026年2月期決算において、中国市場の売上高が2桁減少となったことを公表した。さらに3〜5月期には、売上が約20%減少する見通しも示している。この発表を受け、同社株価は1日で15%以上下落した。
ナイキは長年、中国でスポーツカルチャーを浸透させる存在として成功してきた。しかし現在では、安踏体育用品(アンタ)や李寧(リーニン)といった中国ブランドに市場シェアを奪われつつある。
米アパレルブランド「ゲス」も、中国国内の全店舗およびオンライン販売を終了した。同社は一時、中国全土で150店舗以上を展開し、ジーンズやTシャツなど“アメリカンスタイル”を武器に成長していた。
ただし、中国市場では値引き販売への依存が強まり、利益率の改善が難航。さらに2020年代に入り、中国消費者の嗜好が変化したことで、派手なロゴや露出度の高い米国的ファッションが支持を失っていった。
上海在住の消費者からは、「今の中国では、独自性と価格競争力の両方がなければ生き残れない」という声も聞かれる。実際、閉店セールでは85%引きで販売されるゲスの商品に長蛇の列ができたという。

スターバックスや米自動車ブランドも苦戦

コーヒーチェーン大手スターバックスも、中国事業の過半数株式を中国投資ファンドへ売却することで合意した。かつて同社の創業者ハワード・シュルツ氏は、中国が最大市場になると期待していたが、現在は価格競争と現地ブランドの台頭に直面している。
また、自動車分野でも米企業の苦戦は鮮明だ。米国車ブランドの中国市場シェアは、この10年間で半減以下となり、2025年には5%程度まで低下した。
背景には、比亜迪(BYD)や小米(シャオミ)など、中国EVメーカーの急成長がある。電動化やソフトウェア技術で中国企業が優位に立ち、米メーカーは技術革新のスピードで後れを取った。
バーガーキングの親会社レストラン・ブランズ・インターナショナルも、中国事業の立て直しを目的に、中国パートナー企業への株式譲渡を進めている。

“米国ブランド信仰”が薄れる中国市場

中国市場で起きている変化は、単なる景気減速だけではない。消費者心理そのものが変わりつつある。
以前の中国では、欧米ブランドを所有することがステータスだった。しかし現在は、国産ブランドへの信頼と誇りが高まり、「中国製=低品質」というイメージも薄れてきた。
さらに不動産不況の影響で中間層の購買力が低下し、高価格な外国ブランドよりも、コストパフォーマンスに優れた商品を選ぶ傾向が強まっている。
こうした変化に対応できた一部の米企業は、依然として成功を維持している。サムズ・クラブやクロックスなどは、中国市場向けに商品やマーケティングを現地化し、中国独自の嗜好に適応してきた。
一方、多くの米企業は、従来型の“アメリカブランド”戦略から抜け出せていない。
中国を拠点とするマーケティング専門家オリビア・プロトニック氏は、「以前は中国人モデルの起用や春節限定商品だけで十分だったが、今はそれだけでは消費者の共感を得られない」と指摘する。

米中対立がブランド戦略にも影響

こうした市場変化の背景には、米中関係の悪化もある。
トランプ政権による対中関税強化や、先端技術を巡る輸出規制などを通じ、両国経済は徐々に分断へ向かっている。企業側も、かつてのように「米中関係の安定が利益につながる」と単純には考えなくなっている。
中国市場で成功するためには、単に“米国ブランド”であることではなく、中国の消費者文化や価値観を深く理解し、ローカル市場に適応できるかどうかが問われる時代になった。
かつて中国で圧倒的な存在感を放っていた米ブランドは今、ブランド力そのものの再定義を迫られているのである。(出典:ウォール・ストリート・ジャーナル、画像:BYD、シャオミ、ウォール・ストリート・ジャーナル)

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